2015年12月12日土曜日

意外と「旨み」多し 百年乃茶

百年乃茶 かねき伊藤彦市商店

三重の百年以上経つ在来種の樹から摘んだお茶だそうである。

在来種を売りにしたお茶にありがちな、荒茶っぽい外観をしているのだが、飲んでみると意外とアミノ酸の旨みが多い。

もしかしたら、「在来種」「百年以上」を前面に押し出しているものの、作り方としては実はたっぷり肥料を与えられているのではないか?という印象を抱いた。
もちろんそのことは書いていない。

ただ、これが無かったらよくある有機栽培のようなパサパサな味になりかねないので、この場合はありだと思う。

2015年12月9日水曜日

ついに昨年に劣らぬ茶に出会う 中嶋農法のお茶 平成27年産

鹿児島県知覧市 古屋五男さん製造


昨年とても印象が良かったが、本年度産もとても良かった。
もしかすると昨年以上かもしれない。

普通蒸しと深蒸しの中間くらい。

瑞々しく、ミル芽香でも覆い香でもない、青々とした葉の香りが口の中いっぱいになる。

火香やアミノ酸的旨みはやや目立つが、青々とした香りの良さが上回る。

知覧町のお茶らしく、葉の渋みは少なくまろやか。

今年飲んだ中で、同銘柄で昨年より不味くなっていないお茶についに出会った。


お茶に有効な「中嶋農法」


中嶋農法は、中嶋常充氏が提唱する作物の栽培方法で、土壌診断により土に足りないもの(肥料)を施し、過剰なもの(肥料)減らし、植物本来の強さを引き出そうとするものだそうだ。

今までの農業は「窒素」「リン酸」「仮」の三大要素ばかりが重視され、ミネラル不足になっていたという。
逆にこの三大要素が過剰摂取されたわけだが、特に「硝酸態窒素」は農薬よりも危険とも言われており、
三重県農業研究所によると、
http://www.mate.pref.mie.lg.jp/marc/tanpo/50/5015.PDF
「茶の窒素施肥量は農作物の中で最も多く、茶園地帯では地下水の硝酸汚染が懸念されています。」
とのこと。

つまり、硝酸が過剰になりやすいお茶の世界で、中嶋農法は特に威力を発揮すると見ることもできるわけである。

2015年11月10日火曜日

2015年10月11日日曜日

ミル芽香と渋みが一体になった分かりやすさ――相藤農園「一番摘み」

沢山の品評会受賞歴を誇る相藤農園の川根茶。
その「一番摘み」である。

「一番摘み」とあるが、こちらは「5月上旬に収穫されたお茶」(1080円/100g)だそうで、

実際は更に
  • 「初摘み」:4月末から5月初旬に特に良い茶園の最初に収穫された最もみる芽(若い芽)のお茶(2000円/100g)
  • 「大はしり」:5月初旬に良い茶園で収穫されたお茶(1500円/100g)
  • 「八十八夜摘み」:5月初旬の八十八夜の頃に収穫されたお茶(1200円/100g)
が上の価格帯=早い茶摘み時期に鎮座する。

「一番摘み」と「初摘み」の違いが紛らわしい!
「『初』という意味ではなくて、『一番王道の時期』ということで・・・」ということであろうが、気になる表現である。

それでも、この「一番摘み」も封を開けた瞬間に、ミル芽の香りが溢れてくるのは見事としか言いようが無い。
近年、100g1000円のお茶で、この香りにはなかなかありつけない。
というか、新茶の時期に新茶を買ってもこの香りを持ったものが少ない。
その点こちら相藤農園さんのお茶は、素晴らしい鮮度保持ができているということである。

ただ、葉の渋みというか苦味も同時にかなり感じるお茶で、よくイメージされる静岡らしいお茶といったところであろうか。
ミル芽の香りと苦味渋みが渾然一体となって押し寄せてくる、分かりやすさ持ったお茶と言えるだろう。

乾燥もしっかりさせていると思うが、やりすぎの手前できちんと止めているように思う。

2015年10月4日日曜日

「萬古不易」――茶舗あすか萬古焼コレクション

日本茶の急須を売るお店として、東京の二大巨頭といえば西荻窪の「茶舗あすか」さんと神田の「丸善銘茶」さんになるかと思うが、茶舗あすかさんがついに万古焼の展示をされることになった。

その展示の中心を成すのは山本広巳さん。
美意識の点で個人的な好みからは外れるが、使いやすさや急須を探求したという点で、空前絶後の製作家といっても過言ではないだろう。
お姉さんが作っていたと言われる茶漉しは、どんな深蒸しでも涼しい顔で淹れてくれそうだ。

急須というと、古いお茶屋さんに残るものを見るばかり。
しかし茶葉と同じように、産地にでかけたり、競りで落としたりして、コツコツと良いものを集めているお店も存在するのだ。
そしてそれを知っている急須好きのお客さんが喜んで買ってゆく。
広告があるわけではないから、マスコミで急須ブームを仕立てるようなことはないかもしれないけれども、水面下でそういう愛好家たちがいるのだ。

色々なお茶を買い歩くようになったら、きっと急須にも興味を持つ。
もしそんな段階に来た人がいたら、ぜひ足を運んでみるべきだ。

お茶より珍しい急須の祭典。きっとすごいものになるだろう。


神楽茶樓
東京都杉並区西荻北3-16-3 西荻神楽ビル 1F
03-6913-9370

展示期間10月1~7日

2015年9月29日火曜日

不特定多数に飲まれることをよく考えている 一保堂 玉露 萬徳(まんとく)

頂き物。
玉露にしては渋みがあり、細かい茶葉も多い。

サイトによると
玉露独特のうまみをさっぱりと味わえ、さらにお茶らしいすっきりさも楽しめるのが「萬徳」。ほんのり感じる渋みがあるので、玉露の濃厚さがちょっと苦手…という方にもおすすめです。
とのことで、脳内の「一般人」向けに作った日和見主義的なお茶なのかな?と不安がよぎる。

しかし、しばらく飲んでみると、少しだけ茶葉を多くして並煎茶のようにがぶがぶ飲むような方法で美味しい、実に便利なお茶。
そういう意味では玉露というよりかぶせ茶的なポジションなのかもしれないが、「賓水園製茶 特上玉露」あたりに比べると、かぶせ香が突出することなく、渋みや葉の味が重層的。

100gで1,800円もするほどの茶葉ではないとは思うものの、味や香りの一部分だけが突出するのではなく、バランスが良いのは、さすが多くのユーザーに揉まれた店の味なのかなと思う。

また、最初は充分以上と思われるほど乾燥していると感じたが、今夏の猛暑で痛んでゆく我が家の他のお茶をよそに、こちらのお茶は味の変化がそれほどでもなかった。

やはり全国のデパート支店や贈答品などでコントロール不能な環境におかれることを想定したらこのような乾燥になるだろうし、また、猛暑の中でそれが実際に役立つのを目の当たりにすると、お見それしましたと言わざるを得ない。
自分の気付かないところでも、更にいろいろな工夫がなされていることだろう。

同じ値段を出せば、きちんとした管理できちんとした淹れ方をすれば、もっと美味しいお茶はあるし、もし「これこそ玉露の味だ」と思う人がいたらもう少しいろいろ飲んでみることを勧めたくはなるが、横着者にとってはこんなにありがたいお茶もなかなかないだろう。

飲み終わるころには「もう一缶買おうかな?」と思ってしまうようなお茶だった。

中缶箱(155g)3,240円(税込)
100g袋 1,836円(税込)

2015年7月6日月曜日

賓水園製茶 特上玉露

賓水園製茶 特上玉露 1600円/100g、2015年産

今年はまだこれだというお茶に出会うことができず、目下のベストは友人宅でいただいた昨年度産の煎茶という始末。

そんな折、偶然出会ったお茶が賓水園製茶さんの特上・玉露(2015年産)である。
袋には「100%西尾産」と書いてある。

調べてみたところ、「西尾市観光協会」のサイト

当店は明治三十年の創業で、当代で四代目となります。屋号の賓水園(ひんすいえん)は西尾茶を育てた母なる河・矢作(やはぎ)の清流にちなんだものです。自園自製による良質で安全な原料を用い、常に皆様に喜んでお召し上がりいただける茶づくりを目指して努力しております。

との情報があった。

聞くところによると、玉露の中でもこちらだけが手摘みで、100g1600円らしい。
手摘みの玉露にして何という安さだろうか。

公式ウェブサイトが無いようなのだが、皆が知らないのはもったいないと思う。

2011年に飲んだ嬉野の「茶舗 多与安」さんの100g1,500円の玉緑茶も鮮烈に覚えているが、まだまだ各地には商売っ気が無くて、誠実で、背筋が伸びるようなお茶が沢山あるのだ。

お茶に限らず、練馬の糀屋三郎右衛門さんの味噌のように、物の良さに対して値段が安すぎるものに出会うことがある。
それを当然と思わず、彼らの作るものの素晴らしさに、一人でも多くの人が気付くことができればと思う。


さて、玉露ということで宝瓶や絞り出しでエキスを抽出するような飲み方をしてみると、苦味が少なく、甘み、旨みが爆発する。それでいて、旨み成分も単調ではなく葉の味が連なっている。

外観は、品評会出品茶のような細く撚られたものではなく、100g1000円の煎茶のような形状 をしているので、手摘みにしてはもったいないようにも見えるのだが、味は感激した。

また、外観の通り、黒みがかった茶葉というより緑色の茶葉の味で、山間のお茶のような香りは無いが、柔らかい。

ただ、このお茶の真価を知るには、自分ももっと玉露の経験をもっと積む必要があると痛感した。 

2015年5月26日火曜日

新生わたらい茶 特上煎茶(八十八夜)

「極上」に比べると、こちらの「特上」は味が強く、硬く生育した茶葉独特の渋みが感じられたが、渋みの質が昨年(14年産)とは違う感じで、渋みもしくはにおいに近い雰囲気。
ただし今年の「極上」で気になった茶色の葉屑の混入は見られない。
茎に近い部分がより多く入っているが、一般的な1000円/100gのお茶を考えたら十分上等だと思う。
火香を感じないのも素晴らしい。

いくつか飲んでみて、どうやら今年のお茶は、茶葉が硬めのまま香りが少なくなったような傾向がある気がする。


2015年5月21日木曜日

新生わたらい茶 極上煎茶(初摘み)

昨年(2014年度)は例年に比べてこの備忘録の更新が少なかったが、お茶を飲んでいなかったのではなく、実はこちらのお茶ばかり何度も買って飲んでいたので、書くことが無かった。
何年か日本茶の世界を渉猟したとは思うが、有機栽培の安全性と深い味わいを兼ね備えたこのお茶に出会って、ほかを探す気がなくなるぐらい素晴らしいお茶だった。

その2015年産である。
驚くことに、昨年のものよりも明らかに茶色(ブラウン)の葉の屑が多く混入している。
外観の質はかなり低下したといえるが、肝心の味はどうだろうか。
2014年産に比べると水っぽいというか香気が少し足りないような気がする。
ただ味は面白く、黒みがかった高級茶の味というよりは、ぬるっとした緑のエキス、あるいは少し木の実のような味。
この旨みは昨年には無かった別の長所でもあると思う。
香りの薄さは、昨年よりも少し茶葉を多くしてやると、良い具合だ。
相変わらず火香が全く目立たないのも素晴らしい。

昨年とはかなり雰囲気が違うが、良いお茶であると思う。
ただ、今年はもう少し他のお茶も飲んでみようと思った。

2015年5月19日火曜日

生仕上げ普通蒸し新茶 品種 ゆたかみどり 1404円/100g

毎年非常に楽しみにしているお茶。
今年は、例年よりも香りがおとなしく、苦味のほうが引き立ちやすいかな。
茶葉も硬めで、同じ茶葉の量ならば例年より味も薄めだと思う。
それでも独自の仕上げによるジューシーな味わいは感じられた。
薄い味を考慮して茶葉を少し多めにしたら、ようやく、さすがの味というところに辿り着くことができ、100g飲み終わるころには同じものをまた買いたくなっていた。

農作物ゆえ年毎の差異はあるが、腰を据えて付き合うだけの価値があるお茶。
来年も再来年もいただけたらと思う。

2015年5月1日金曜日

伊豆に香る九州産新茶--市川のぐり茶

伊豆に用事があり、土産物屋で購入。
伊豆はぐり茶の名産地のようだ。

賞味期限を見ると、2016年4月20日とあるので、普通に考えれば1年前である2015年の4月20日ないし21日に製造されたものかと思う。
であれば、もし静岡のお茶とした場合、かなりの「走り」ということになり、土産物屋で80g1080円で購入できるとは考えにくい。
よく見ると、「原料原産地名」は「国産」と記載があるほか、「伊豆に香るぐり茶」とは書いてあるが、「伊豆産」「静岡県産」とは辛うじて書いていない。あくまで「伊豆に香る」というあいまいな表現に留めている(笑)。


果たして、土産物店専門商品であるこの商品は、九州産の茶葉であるとのこと。
ほかのお茶は静岡産とのことである。
なおこのお茶は、市川製茶工場さんのサイトには掲載されていない。

実際のところよくある話だと思う。
製茶技術が伊豆に香るということで・・・。

さて味は、九州産でも早い部類の茶葉になるのであろう。
ミル芽の香りが爆発する、まさに「走り」の味そのもの。
「走り」信仰は色々問題があるといわれているが、やはり走りのミル芽の香りはたまらなく良い。

やぶきたの味ではなく、ゆたかみどりあたりか。

開封当初は圧倒的なミル芽の香りの前に欠点は消えていたが、缶に移して香りが減ってきたら、火香の強さが気になるようになってきた。

グレード的には、市川製茶工場さんの中では100g1000円程度のものを下回る程度らしいが、もしかしたら静岡産より好みかもしれない。
また、二淹目三淹目でもミル芽の香りが十分残っていて美味しく飲めるのも良い。

奥ゆかしいわけではないが、春らしい香りが素直に溢れ出ていて、良い。
今年も新茶をいただけたことに感謝したい。

2015年4月18日土曜日

素人っぽさが一切無いほうじ茶--柳桜園茶舗「香悦」

京都、柳桜園茶舗さんは焙じ茶で名高いらしく、京都のお土産と言うと世間一般では一保堂さんであるが、通はこちらの焙じ茶を持ってゆく、というようなことを書いている人がいた

中でも「香悦」は代表的な銘柄の一つで、茎を中心にしたほうじ茶だそうである。

ほうじ茶でパッケージングは鳥獣戯画、名は「コウエツ」とくれば、かなりみやげ物の感が強くて心配になる。

袋を見ると、100gではなく90gになっており、サイトを見るとほかにも86gの缶入りや38g、126g、173g、178gなどが目に入ってきた。
なかなか商売上手なのだと思うが、そこら中のお茶屋さんが真似したとすると、かなりめんどくさいことになりそうである。

この「香悦」の袋入りは90gで864円だから、100g換算で960円である。
グラム数をあやふやにする商法にありがちなことだが、こちらも多分に漏れず、焙じ茶としては高い部類であると言えるだろう。

しかし飲んでみると幾多の心配をよそに、味は素晴らしく、時間が経っているため香りこそ乏しいものの、しっかり熱を通しているのに焦げ臭さが無く、甘み・旨みを多く感じる。

焙じ茶を購入した経験が少ないので確たることは言えないが、今まで経験した市販の焙じ茶としては驚きの美味しさで、仕上げの巧さを存分に感じる。
自分で焙じてもこのようなものは作れない。
火というよりは熱を上手に使っているのだろうか?

商売っ気、焙煎の技術ともに、素人っぽさが一切無いお茶であると思う。
名ばかりのみやげ物とは程遠いきちんとしたお茶。飲むことができたことに感謝したい。

2015年3月27日金曜日

中嶋農法のお茶 1,188円/100g

「さつき濃」さんは、昭和37年に30店舗ほどの茶専門店が集い活動を開始したそうで、ウェブサイトを見ると、2015年現在も首都圏を中心に25店舗が加盟店となっているようだ。

かなり色々なお茶があるようだったが、知覧町の古屋五男さんが生産された「中嶋農法のお茶」を購入させていただいた。
古屋五男さんは全国茶品評会で一等賞も受賞されたこともある方のようだ。

味・香りは、ゆたかみどりあたりだろうか??
中~深蒸し気味で、水色はかなり緑がかったものになる。
火香は気にならない。
瑞々しく、乾燥させすぎないように気をつけたのが伝わってくる。

中~深蒸しゆえ、油断すると味が濃くなってしまい加減が難しいが少し少なめの茶葉が合うかもしれない。
他のお茶に比べると二淹目も味の変化は少なめなのが良い。

旨みが多いものの、アミノ酸的なものに偏らずバランスが取れている。
このあたりは中嶋農法とも関係があるのだろうか?

空気を抜くタイプの袋詰めで鮮度もよく保持されており、香気が堪能できる。
この時期に、この品質の香りが堪能できるのは、とても素晴らしいことだ。
購入して良かったと思えるお茶である。

2015年3月15日日曜日

[番外編・珈琲] 堀口俊英『珈琲の教科書』(新星出版社、2014年)

堀口珈琲の堀口俊英さんが著した『珈琲の教科書』(新星出版社、2014年)に衝撃を受けた。

(新星出版社は、紅茶でもティーハウス・タカノの高野健次さんの本も出しており、より専門的な柴田書店に次いで優れた本が多いと思う。)


・コーヒーは「激動」

堀口氏の立場によるところもあるが(後述)、
「過去10年間、私が明治維新に匹敵するようなコーヒー激動時の中にいた」(2010年談)
とのことである。
それは何かというと、
  • 産地から流通過程でのトレサビリティの進歩
  • カッピングによる評価基準の確立
であると思われる。


・アメリカにおける判定の発展

雰囲気に流されやすい日本人と違い、論理的思考に強いアメリカ人が絡むと分類が非常に進歩するのが世の常であるが、コーヒーもSCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)の設立(1982年)が、その後のコーヒーの世界に絶大な影響を与えている。

SCAAでは、まず生豆の状態で、「欠点豆の少なさ」「異臭の有無」「生豆の色」「水分値」「水色」といったもので欠点を調査する。
そこで一定基準を満たしたもののみが、焙煎の上カッピング(いわゆるテイスティング)される。

カッピングでは「フレグランス/アロマ(粉のみの香り/湯を注いだ香り)」「フレーバー(独特の香味)」「アフターテイスト(後味)」「アシデティ(酸味)」「ボディ(コク)」「バランス(調和)」「ユニフォーミティ(5つのカップの均一性)」「クリーンカップ(透明性)」「スウィートネス(甘み)」「ディフェクト(欠点)」「オーバラル(総合)」が判断される。
この段階では、より味・香りの個性を判断する方向に力点がおかれている。

※ここでいう「クリーンカップ(透明性)」は水色(すいしょく)のことではなく、「最初にコーヒーを口に入れたときから最後のアフターテイストまで、他の味にじゃまするマイナスの印象がないこと」という意味だそうだ。

この判断基準は、1986年にできたものを基に、2004年により客観化・精密化をしたものだそうだ。

そしてカッピングで100点中80点以上を獲得したものが「スペシャルティ・コーヒー」と認定される。


日本茶と照らし合わせると、おそらく「外観」や「水色」は第一段階の選別のところに含まれ、カッピングのところに「滋味」「香気」が非常に細かくなったものが該当しているように見える。


・味の判断には知識が不可欠

本書に曰く
ただコーヒーを飲んでいるだけでは香味を覚えることはできない。そのコーヒーがどこの国のどの生産地のどのような品種で、どんな方法で精製されたかなどは最低限押さえておかなければならない。
道案内もなくコーヒーを飲むのは、道案内なくジャングルを歩くのと同じようなものだ。
(中略)
コーヒー愛好家は「おいしい」か「まずい」かという曖昧な主観でしかコーヒーを判断しない。いや、しないというよりできない。正しい方法を何も教わっていないからである。
コーヒーは飲むだけではいつまでも進歩しない。信頼できる店で、高品質のコーヒーを購入することから始めよう
とのこと(p76-77)。

素人が予備知識も無しに上手いだの不味いだの言うだけでは、判断の根拠に乏しいということである。
そして、「玄人」であっても、日本の従前の喫茶店は、産地や品種、精製方法の勉強、判断基準が甘いものが多く、そしてSCAAのような精密な基準で判断されたものとは次元が違っていた、というのが暗にほのめかされている。


これを読むと、昨年の日本茶Awardのように、知識の有無も不明な消費者が19点の中から1票入れるようなものは、あくまで余興であり、その域を超えたような評価は決して得るべきではないというのが、一目瞭然かと思う。
各種の日本茶品評会の評価方式も、コーヒーに習って改革をしたほうが良いのかもしれない。



ただ本書およびコーヒー界にもいくつかの課題がある。


・品種の分類は今後

内容に即した上で気になるのは、コーヒー発祥の地とされ、現在最高の評価を得ているエチオピアには原種が3,000種類以上あるらしく、アフリカということもあってか、それらがほとんど分類もできないままであるのは、大きな泣き所になっているという点である。
同じく最高評価を得ているインドネシアのマンデリンの品種もよく分かっていないようである。

「トレサビリティが圧倒的に進化した」、「品種の違いを勉強せよ」というわりに、最高評価を得ている豆の品種があまりに分かっていないのである(もちろんこれは堀口氏の責任ではないが)。
もろもろ発達した日本における日本茶とは違う泣き所で、今後の課題になるだろう。

逆から見るなら、これらの品種を研究することで、将来世に出てくる豆が全く違ったものになってゆくのは確実で、期待と可能性を感じる分野である。


・高級品だけ飲むことは何を意味するか?

内容についての疑問としては、堀口氏からも大いに崇拝されているワインの評価基準では、パーカーポイント高得点のものや、あるいは著名シャトーによる高級ワインばかり飲むような人は、すでに「スノッブ」「無粋」といわれる傾向すらあるわけだが、そうした現実が踏まえられていないのは気になる。
(日本茶も品評会上位入賞茶ばかり毎日飲むのが粋とは思えない。)

本書では流通や生産者の持続性に配慮した「サスティナブル・コーヒー」などにも言及されているが、そのような視点に立脚するならば、ピラミッドの頂点にあるもの以外も正当に消費することが必要だということに気付いてしかるべきだ。だが、そのような論点は欠落していて、「高くて美味しいもの」を素直に礼賛する段階に留まっている。

点数が高いものばかり安易に並べた「スペシャルティ系」コーヒー店も増えているらしく、これが後述する「意外とおいしくない」という声が多いことにも繋がっているように思われる。


・オーガニックへの視点

また、ワインではビオワイン愛好者がその一角を占めるようになってかなり経ち、実際のとこ通常のワインとは全く異なる味わいになるが、本書におけるオーガニックコーヒーへの言及は、表面をなぞっただけに留まっている。


・焙煎や淹れ方が二の次な理由は・・・

堀口氏の立場上仕方ないのかもしれないが、世には一冊まるごと淹れ方だけを解説したような本さえあるのに比べると、本書では焙煎や淹れ方についてはかなり簡素になっており、頁の大半が産地やスペシャルティ・コーヒーの紹介あるいは正当化に割かれている。

おそらく、焙煎や淹れ方に力を割いてきたそれまでの日本のコーヒー店やその支持者から、かなり悪く言われたりもしたためにその反動もあるのだろうと想像する。
暗に日本のコーヒー店を批判するようなくだりも少なくないが、かえって余裕の無さを感じる。

堀口珈琲さんの焙煎は、豆の良さを素直に出していると思うので、その点が残念である。
もっと落ち着いて焙煎や淹れ方にもより多くの頁を割いてもよかったのではないか。
あるいは、淹れ方や焙煎に命を賭けたような店に真摯に習っても良かったのではないだろうか。


・知識と肩書きばかりで美味しくない店が増えた?

「激動」が喧伝される一方、支持者がいればア ンチもいる常で、スペシャルティ・コーヒーやCOE(Cup of Excellence)を売りにするような店には、今や能書きばかりで味が伴わない店が多くなったという意見もかなり目にする。
日本茶で「インストラクター」や「茶師○段」を前面に出したお店で好みの味のところは一つも無かった、という個人的経験と同じようなものだろうかと考えると、それは十分あり得る話だと思う。

堀口氏に絶大な影響を与えたSCAAだが、逆に、それを担うアメリカのカルト的コーヒー店主の中に、日本の喫茶店文化からの多大な影響を語る人もいる、という事実は、ちょっとした皮肉である。


本書が大変に素晴らしい著作であるのは間違いないが、現状では、コーヒー界における堀口氏の立場、すなわち、
  •  焙煎や淹れ方よりも産地や豆の素性に力を入れていると世間で認識されているということ
  • アメリカ留学から帰国直後の学生並に、近年のアメリカの方式に同調していること
を差し引いた上で、読む必要があるかもしれない。



全体を総合すると、コーヒーの世界は、アメリカが絡んでるため、特に近年、評価基準が非常に発展しており、日本茶のそれとはえらい違いであることに衝撃を受けた。

また、功罪・賛否両論あるが、COEなど、オークションで誰もが入札できる制度が出現したり、商売としては、規模でも発想でも日本茶とは全くレベルが違っているようだ。

その一方で、生産レベルでは日本茶ではほとんど無いような異物の混入や農薬検出などが頻発し、品種も不明な点が多いというのがコーヒーの現状のようである。

2015年3月3日火曜日

日本茶Award2014

日本茶Award2014なるイベントが行われた。
栄えある第一回である。


・消費者参加型の品評会

これまでは、品評会というと業界内のみで行われていたが、日本茶Awardにおいては、業界内で事前選出されたお茶(2014年は281点から選出された19点)を、「TOKYO TEA PARTY」で一般消費者(要事前申し込み)がテイスティングして投票を行う。

業界内で事前選出した19点(「プラチナ賞」)の中でも特に高評価を受けたお茶(「プラチナ大賞」)と、業界選出19点の中から消費者が選ぶ「日本茶大賞」とがある。



・評価方法も味本位に変更

以前にも書いたが、従来の品評会は、「滋味」「香気」「外観」「水色」の4点から採点され、直接的には味とはいえない「外観」「水色」に25%前後の配点されている点については、賛否両論があった。
その点、日本茶Awardにおいては、「外観」や「水色」は気にせず、味(滋味+香気)で判断することとなった。
専門家が味だけで点数を付けるワインなどを考えてみても、この点では世界基準、あるいは出荷側というより消費者側の視線に近づいたと言える。

また、荒茶ではなく加工済みのお茶を、生産者が指定する温度や抽出時間で淹れている。
しかも業界内の選出では、二杯目の味まで見ているという。


・幅広いお茶を知ることに重点

渋谷ヒカリエで行われたイヴェントでは、出品された281点が並び、事前申し込みすると、281点から選出された19点を試飲し、お気に入りの1点に投票を行うことができる。

この消費者参加の試飲は、普通蒸し、深蒸し、玉露、希少品種、更には焙じ茶や発酵茶まであっての19点なので、良い点としては、幅広いお茶に触れることができるため、見聞を広めることができる点が挙げられる。

その一方で、19点に全てを詰め込んでいるため、たとえばその中に「玉露」はゼロで、「かぶせ茶」は一種類しか無かったことからも分かるように、消費者が特定の種類の中から選ぶようなことはできない。
同じ種類から日本一を選びたいのだという人々にとっては、不満の残る内容となっている。

事前選出された「プラチナ賞」の19点はこちら
 【うまいお茶】部門
・京都府 中窪幸司出品     普通煎茶 やぶきた
・福岡県 (株)熊谷光玉園出品     普通煎茶 さえみどり
・鹿児島県 今吉耕己出品     普通煎茶
・静岡県 土屋裕子出品     普通煎茶
・福岡県 高木暁史出品     かぶせ茶
・熊本県 猪原真滋出品     釜炒り茶 やぶきた
・長崎県 (有)茶友出品     蒸し製玉緑茶 あさつゆ
・鹿児島県 (株)特香園出品     深蒸し茶
・鹿児島県 (有)小牧緑峰園出品     深蒸し茶 さえみどり
・鹿児島県 今隈幸洋出品     深蒸し茶
【香りのお茶】部門
・宮崎県 (有)井ヶ田製茶北郷農園出品     普通煎茶 おくみどり
・静岡県 森内吉男出品     普通煎茶 蒼風
・東京都 和多田喜出品     普通煎茶 蒼風
・京都府 (株)お茶の玉宗園出品     ほうじ茶
・岡山県 恒枝信雄出品     ほうじ茶
・佐賀県 太田重喜出品     釜炒り茶 ふじかおり
・静岡県 高橋一彰出品     発酵系のお茶 静印雑131実生
・静岡県 高橋達次出品     発酵系のお茶
・宮崎県 宮崎亮出品     発酵系のお茶


・表面的インパクトが有利になると事前に予想できた

したがって、そういうなかから「日本茶大賞」を選ぶことに起因する問題もある。
それは何かというと、「手っ取り早いインパクトがあるもの」、具体的には発酵茶や火香の強いもの、希少品種、珍しい仕上げなど、「変わった味のするものが圧倒的に有利になるだろう」ということが、試飲した時点で既に予見できた、という点に尽きる。

果たして結果は

○日本茶大賞 
有限会社茶友(長崎県) 蒸し製玉緑茶 49票

○日本茶大賞特別賞
【うまいお茶】部門 株式会社熊谷光玉園(福岡県) 普通煎茶さえみどり 41票

【香りのお茶】部門 宮﨑亮(宮崎県) 発酵系のお茶 36票

(総投票数:358票/有効投票数:357票)

となり、業界内で選出した「プラチナ大賞」とは全く異なる結果となった。 
味・香りのちょっと珍しい、変化球のものばかりである。
この結果を見ると、ともするとこれまで高級茶の代表とされてきた「玉露」「かぶせ茶」、あるいは日本茶の代名詞である「やぶきた種の普通蒸し煎茶」などが劣っているという誤解を与えかねないが、そうではない。
ひとえに19点に全てを詰め込んだエントリーの仕方によるところが大きい。

予備知識が無い状態で、旨みや香りが珍しいものが続く中、オーセンティックなお茶の味を一瞬で評価できる一般人がどれだけいるだろうか、ということである。
それはかなり難しいのではないかと思う。

肯定的に捉えれば、普段多くの消費者は触れる機会があまりなかったと思われる発酵茶や玉緑茶が知られるきっかけになり、更にそれらが高い評価を得た、ということもできる。

その一方で、うわべのインパクトが大きいお茶ばかりが高評価を得てしまう仕組みに多くの人が無自覚のまま評価がなされてしまうことには、大きな危惧も覚える、というのが偽らざる感想である。
このような危うい選び方で素人が評価を下す仕組みだけが「消費者参加」のかたちではないように思う。
むしろ、専門家たちが本気で評価する場面が見てみたい。

たとえば、色々な地方の専門家がお茶を飲みながら議論を交わし、観覧者も同じお茶を飲みながらそのお話を聞ける(時には発言も)、というような形式のほうが有意義だと思う。


・「プラチナ大賞」の価値

その意味においては、業界内の事前審査で「プラチナ大賞」を獲得した二点のほうが、信頼性は高いように思う。
その二点は、

【うまいお茶部門】
 深蒸し茶(株)特香園(鹿児島県)

【香りのお茶部門】
 煎茶(有)井ヶ田製茶北郷茶園(宮崎県)

となっている。

絵に描いたように深蒸しと普通蒸しが一点ずつとなっているが、九州、それも南勢に偏ったのを変に排除しなかったのは素晴らしい。

普通蒸しのほうの(有)井ヶ田製茶北郷茶園(宮崎県)は、たしかに美味しかった。
だが見方を変えれば、アミノ酸的な旨みにやや偏り、火香もかなりあるのではないか。
評価者にもっと関西のお茶業者さんがいたら、プラチナ大賞を獲れただろうか?
もう少し「旨み」一辺倒ではない味わいだと更に良かったと思う。



その他気になった点を少し挙げようと思う。

・プラチナ賞19点は売り切れ続出


事前選出された19点は人気で、早い段階で大半が売切れてしまった。
「プラチナ大賞」2点をはじめ、「プラチナ賞」19点は、それが決定した時点でより多めに取り寄せて販売したほうがよさそうだ。
もちろん、第一回で数字の見えない中、予想以上の売れ行きだったということを意味しているので、この売り切れは嬉しい悩みでもあったといえる。


・19点から漏れた出品茶を買いたくなる動機付けが必要

また、主に19点から漏れた残りの200点以上が販売されていたが、さすがに数が多すぎて選びきれないのと、「19点に入賞できなかったものか」という先入観を払拭する仕組みが必要かと思った。
たとえばいくらか料金を払うことで一定時間もしくは一定回数試飲できるようにしたりすると、選びやすいかもしれない。


・Awardをアワードと読むのはどうか・・・

所詮カタカナ化の話だから完全に正確にはなり得ないが、"Star Wars"が「スター・ウォーズ」であるように、"Award"は「アワード」ではなく「アウォード」とするほうが適切だと思う。
できれば複数形でAwards(アウォーズ)と書くべきものかと思う。
サッカーは「Jリーグ・アウォーズ」と名乗っている。



色々改善できそうな点はある。しかし「口で言うこと」と「実現すること」は全く別のものであり、実際にこのようなイヴェントを行うことには、途方も無い労力が伴っている。
単純な目先の損得だけを考えていたら絶対にできないことである。