2015年3月27日金曜日

中嶋農法のお茶 1,188円/100g

「さつき濃」さんは、昭和37年に30店舗ほどの茶専門店が集い活動を開始したそうで、ウェブサイトを見ると、2015年現在も首都圏を中心に25店舗が加盟店となっているようだ。

かなり色々なお茶があるようだったが、知覧町の古屋五男さんが生産された「中嶋農法のお茶」を購入させていただいた。
古屋五男さんは全国茶品評会で一等賞も受賞されたこともある方のようだ。

味・香りは、ゆたかみどりあたりだろうか??
中~深蒸し気味で、水色はかなり緑がかったものになる。
火香は気にならない。
瑞々しく、乾燥させすぎないように気をつけたのが伝わってくる。

中~深蒸しゆえ、油断すると味が濃くなってしまい加減が難しいが少し少なめの茶葉が合うかもしれない。
他のお茶に比べると二淹目も味の変化は少なめなのが良い。

旨みが多いものの、アミノ酸的なものに偏らずバランスが取れている。
このあたりは中嶋農法とも関係があるのだろうか?

空気を抜くタイプの袋詰めで鮮度もよく保持されており、香気が堪能できる。
この時期に、この品質の香りが堪能できるのは、とても素晴らしいことだ。
購入して良かったと思えるお茶である。

2015年3月15日日曜日

[番外編・珈琲] 堀口俊英『珈琲の教科書』(新星出版社、2014年)

堀口珈琲の堀口俊英さんが著した『珈琲の教科書』(新星出版社、2014年)に衝撃を受けた。

(新星出版社は、紅茶でもティーハウス・タカノの高野健次さんの本も出しており、より専門的な柴田書店に次いで優れた本が多いと思う。)


・コーヒーは「激動」

堀口氏の立場によるところもあるが(後述)、
「過去10年間、私が明治維新に匹敵するようなコーヒー激動時の中にいた」(2010年談)
とのことである。
それは何かというと、
  • 産地から流通過程でのトレサビリティの進歩
  • カッピングによる評価基準の確立
であると思われる。


・アメリカにおける判定の発展

雰囲気に流されやすい日本人と違い、論理的思考に強いアメリカ人が絡むと分類が非常に進歩するのが世の常であるが、コーヒーもSCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)の設立(1982年)が、その後のコーヒーの世界に絶大な影響を与えている。

SCAAでは、まず生豆の状態で、「欠点豆の少なさ」「異臭の有無」「生豆の色」「水分値」「水色」といったもので欠点を調査する。
そこで一定基準を満たしたもののみが、焙煎の上カッピング(いわゆるテイスティング)される。

カッピングでは「フレグランス/アロマ(粉のみの香り/湯を注いだ香り)」「フレーバー(独特の香味)」「アフターテイスト(後味)」「アシデティ(酸味)」「ボディ(コク)」「バランス(調和)」「ユニフォーミティ(5つのカップの均一性)」「クリーンカップ(透明性)」「スウィートネス(甘み)」「ディフェクト(欠点)」「オーバラル(総合)」が判断される。
この段階では、より味・香りの個性を判断する方向に力点がおかれている。

※ここでいう「クリーンカップ(透明性)」は水色(すいしょく)のことではなく、「最初にコーヒーを口に入れたときから最後のアフターテイストまで、他の味にじゃまするマイナスの印象がないこと」という意味だそうだ。

この判断基準は、1986年にできたものを基に、2004年により客観化・精密化をしたものだそうだ。

そしてカッピングで100点中80点以上を獲得したものが「スペシャルティ・コーヒー」と認定される。


日本茶と照らし合わせると、おそらく「外観」や「水色」は第一段階の選別のところに含まれ、カッピングのところに「滋味」「香気」が非常に細かくなったものが該当しているように見える。


・味の判断には知識が不可欠

本書に曰く
ただコーヒーを飲んでいるだけでは香味を覚えることはできない。そのコーヒーがどこの国のどの生産地のどのような品種で、どんな方法で精製されたかなどは最低限押さえておかなければならない。
道案内もなくコーヒーを飲むのは、道案内なくジャングルを歩くのと同じようなものだ。
(中略)
コーヒー愛好家は「おいしい」か「まずい」かという曖昧な主観でしかコーヒーを判断しない。いや、しないというよりできない。正しい方法を何も教わっていないからである。
コーヒーは飲むだけではいつまでも進歩しない。信頼できる店で、高品質のコーヒーを購入することから始めよう
とのこと(p76-77)。

素人が予備知識も無しに上手いだの不味いだの言うだけでは、判断の根拠に乏しいということである。
そして、「玄人」であっても、日本の従前の喫茶店は、産地や品種、精製方法の勉強、判断基準が甘いものが多く、そしてSCAAのような精密な基準で判断されたものとは次元が違っていた、というのが暗にほのめかされている。


これを読むと、昨年の日本茶Awardのように、知識の有無も不明な消費者が19点の中から1票入れるようなものは、あくまで余興であり、その域を超えたような評価は決して得るべきではないというのが、一目瞭然かと思う。
各種の日本茶品評会の評価方式も、コーヒーに習って改革をしたほうが良いのかもしれない。



ただ本書およびコーヒー界にもいくつかの課題がある。


・品種の分類は今後

内容に即した上で気になるのは、コーヒー発祥の地とされ、現在最高の評価を得ているエチオピアには原種が3,000種類以上あるらしく、アフリカということもあってか、それらがほとんど分類もできないままであるのは、大きな泣き所になっているという点である。
同じく最高評価を得ているインドネシアのマンデリンの品種もよく分かっていないようである。

「トレサビリティが圧倒的に進化した」、「品種の違いを勉強せよ」というわりに、最高評価を得ている豆の品種があまりに分かっていないのである(もちろんこれは堀口氏の責任ではないが)。
もろもろ発達した日本における日本茶とは違う泣き所で、今後の課題になるだろう。

逆から見るなら、これらの品種を研究することで、将来世に出てくる豆が全く違ったものになってゆくのは確実で、期待と可能性を感じる分野である。


・高級品だけ飲むことは何を意味するか?

内容についての疑問としては、堀口氏からも大いに崇拝されているワインの評価基準では、パーカーポイント高得点のものや、あるいは著名シャトーによる高級ワインばかり飲むような人は、すでに「スノッブ」「無粋」といわれる傾向すらあるわけだが、そうした現実が踏まえられていないのは気になる。
(日本茶も品評会上位入賞茶ばかり毎日飲むのが粋とは思えない。)

本書では流通や生産者の持続性に配慮した「サスティナブル・コーヒー」などにも言及されているが、そのような視点に立脚するならば、ピラミッドの頂点にあるもの以外も正当に消費することが必要だということに気付いてしかるべきだ。だが、そのような論点は欠落していて、「高くて美味しいもの」を素直に礼賛する段階に留まっている。

点数が高いものばかり安易に並べた「スペシャルティ系」コーヒー店も増えているらしく、これが後述する「意外とおいしくない」という声が多いことにも繋がっているように思われる。


・オーガニックへの視点

また、ワインではビオワイン愛好者がその一角を占めるようになってかなり経ち、実際のとこ通常のワインとは全く異なる味わいになるが、本書におけるオーガニックコーヒーへの言及は、表面をなぞっただけに留まっている。


・焙煎や淹れ方が二の次な理由は・・・

堀口氏の立場上仕方ないのかもしれないが、世には一冊まるごと淹れ方だけを解説したような本さえあるのに比べると、本書では焙煎や淹れ方についてはかなり簡素になっており、頁の大半が産地やスペシャルティ・コーヒーの紹介あるいは正当化に割かれている。

おそらく、焙煎や淹れ方に力を割いてきたそれまでの日本のコーヒー店やその支持者から、かなり悪く言われたりもしたためにその反動もあるのだろうと想像する。
暗に日本のコーヒー店を批判するようなくだりも少なくないが、かえって余裕の無さを感じる。

堀口珈琲さんの焙煎は、豆の良さを素直に出していると思うので、その点が残念である。
もっと落ち着いて焙煎や淹れ方にもより多くの頁を割いてもよかったのではないか。
あるいは、淹れ方や焙煎に命を賭けたような店に真摯に習っても良かったのではないだろうか。


・知識と肩書きばかりで美味しくない店が増えた?

「激動」が喧伝される一方、支持者がいればア ンチもいる常で、スペシャルティ・コーヒーやCOE(Cup of Excellence)を売りにするような店には、今や能書きばかりで味が伴わない店が多くなったという意見もかなり目にする。
日本茶で「インストラクター」や「茶師○段」を前面に出したお店で好みの味のところは一つも無かった、という個人的経験と同じようなものだろうかと考えると、それは十分あり得る話だと思う。

堀口氏に絶大な影響を与えたSCAAだが、逆に、それを担うアメリカのカルト的コーヒー店主の中に、日本の喫茶店文化からの多大な影響を語る人もいる、という事実は、ちょっとした皮肉である。


本書が大変に素晴らしい著作であるのは間違いないが、現状では、コーヒー界における堀口氏の立場、すなわち、
  •  焙煎や淹れ方よりも産地や豆の素性に力を入れていると世間で認識されているということ
  • アメリカ留学から帰国直後の学生並に、近年のアメリカの方式に同調していること
を差し引いた上で、読む必要があるかもしれない。



全体を総合すると、コーヒーの世界は、アメリカが絡んでるため、特に近年、評価基準が非常に発展しており、日本茶のそれとはえらい違いであることに衝撃を受けた。

また、功罪・賛否両論あるが、COEなど、オークションで誰もが入札できる制度が出現したり、商売としては、規模でも発想でも日本茶とは全くレベルが違っているようだ。

その一方で、生産レベルでは日本茶ではほとんど無いような異物の混入や農薬検出などが頻発し、品種も不明な点が多いというのがコーヒーの現状のようである。

2015年3月3日火曜日

日本茶Award2014

日本茶Award2014なるイベントが行われた。
栄えある第一回である。


・消費者参加型の品評会

これまでは、品評会というと業界内のみで行われていたが、日本茶Awardにおいては、業界内で事前選出されたお茶(2014年は281点から選出された19点)を、「TOKYO TEA PARTY」で一般消費者(要事前申し込み)がテイスティングして投票を行う。

業界内で事前選出した19点(「プラチナ賞」)の中でも特に高評価を受けたお茶(「プラチナ大賞」)と、業界選出19点の中から消費者が選ぶ「日本茶大賞」とがある。



・評価方法も味本位に変更

以前にも書いたが、従来の品評会は、「滋味」「香気」「外観」「水色」の4点から採点され、直接的には味とはいえない「外観」「水色」に25%前後の配点されている点については、賛否両論があった。
その点、日本茶Awardにおいては、「外観」や「水色」は気にせず、味(滋味+香気)で判断することとなった。
専門家が味だけで点数を付けるワインなどを考えてみても、この点では世界基準、あるいは出荷側というより消費者側の視線に近づいたと言える。

また、荒茶ではなく加工済みのお茶を、生産者が指定する温度や抽出時間で淹れている。
しかも業界内の選出では、二杯目の味まで見ているという。


・幅広いお茶を知ることに重点

渋谷ヒカリエで行われたイヴェントでは、出品された281点が並び、事前申し込みすると、281点から選出された19点を試飲し、お気に入りの1点に投票を行うことができる。

この消費者参加の試飲は、普通蒸し、深蒸し、玉露、希少品種、更には焙じ茶や発酵茶まであっての19点なので、良い点としては、幅広いお茶に触れることができるため、見聞を広めることができる点が挙げられる。

その一方で、19点に全てを詰め込んでいるため、たとえばその中に「玉露」はゼロで、「かぶせ茶」は一種類しか無かったことからも分かるように、消費者が特定の種類の中から選ぶようなことはできない。
同じ種類から日本一を選びたいのだという人々にとっては、不満の残る内容となっている。

事前選出された「プラチナ賞」の19点はこちら
 【うまいお茶】部門
・京都府 中窪幸司出品     普通煎茶 やぶきた
・福岡県 (株)熊谷光玉園出品     普通煎茶 さえみどり
・鹿児島県 今吉耕己出品     普通煎茶
・静岡県 土屋裕子出品     普通煎茶
・福岡県 高木暁史出品     かぶせ茶
・熊本県 猪原真滋出品     釜炒り茶 やぶきた
・長崎県 (有)茶友出品     蒸し製玉緑茶 あさつゆ
・鹿児島県 (株)特香園出品     深蒸し茶
・鹿児島県 (有)小牧緑峰園出品     深蒸し茶 さえみどり
・鹿児島県 今隈幸洋出品     深蒸し茶
【香りのお茶】部門
・宮崎県 (有)井ヶ田製茶北郷農園出品     普通煎茶 おくみどり
・静岡県 森内吉男出品     普通煎茶 蒼風
・東京都 和多田喜出品     普通煎茶 蒼風
・京都府 (株)お茶の玉宗園出品     ほうじ茶
・岡山県 恒枝信雄出品     ほうじ茶
・佐賀県 太田重喜出品     釜炒り茶 ふじかおり
・静岡県 高橋一彰出品     発酵系のお茶 静印雑131実生
・静岡県 高橋達次出品     発酵系のお茶
・宮崎県 宮崎亮出品     発酵系のお茶


・表面的インパクトが有利になると事前に予想できた

したがって、そういうなかから「日本茶大賞」を選ぶことに起因する問題もある。
それは何かというと、「手っ取り早いインパクトがあるもの」、具体的には発酵茶や火香の強いもの、希少品種、珍しい仕上げなど、「変わった味のするものが圧倒的に有利になるだろう」ということが、試飲した時点で既に予見できた、という点に尽きる。

果たして結果は

○日本茶大賞 
有限会社茶友(長崎県) 蒸し製玉緑茶 49票

○日本茶大賞特別賞
【うまいお茶】部門 株式会社熊谷光玉園(福岡県) 普通煎茶さえみどり 41票

【香りのお茶】部門 宮﨑亮(宮崎県) 発酵系のお茶 36票

(総投票数:358票/有効投票数:357票)

となり、業界内で選出した「プラチナ大賞」とは全く異なる結果となった。 
味・香りのちょっと珍しい、変化球のものばかりである。
この結果を見ると、ともするとこれまで高級茶の代表とされてきた「玉露」「かぶせ茶」、あるいは日本茶の代名詞である「やぶきた種の普通蒸し煎茶」などが劣っているという誤解を与えかねないが、そうではない。
ひとえに19点に全てを詰め込んだエントリーの仕方によるところが大きい。

予備知識が無い状態で、旨みや香りが珍しいものが続く中、オーセンティックなお茶の味を一瞬で評価できる一般人がどれだけいるだろうか、ということである。
それはかなり難しいのではないかと思う。

肯定的に捉えれば、普段多くの消費者は触れる機会があまりなかったと思われる発酵茶や玉緑茶が知られるきっかけになり、更にそれらが高い評価を得た、ということもできる。

その一方で、うわべのインパクトが大きいお茶ばかりが高評価を得てしまう仕組みに多くの人が無自覚のまま評価がなされてしまうことには、大きな危惧も覚える、というのが偽らざる感想である。
このような危うい選び方で素人が評価を下す仕組みだけが「消費者参加」のかたちではないように思う。
むしろ、専門家たちが本気で評価する場面が見てみたい。

たとえば、色々な地方の専門家がお茶を飲みながら議論を交わし、観覧者も同じお茶を飲みながらそのお話を聞ける(時には発言も)、というような形式のほうが有意義だと思う。


・「プラチナ大賞」の価値

その意味においては、業界内の事前審査で「プラチナ大賞」を獲得した二点のほうが、信頼性は高いように思う。
その二点は、

【うまいお茶部門】
 深蒸し茶(株)特香園(鹿児島県)

【香りのお茶部門】
 煎茶(有)井ヶ田製茶北郷茶園(宮崎県)

となっている。

絵に描いたように深蒸しと普通蒸しが一点ずつとなっているが、九州、それも南勢に偏ったのを変に排除しなかったのは素晴らしい。

普通蒸しのほうの(有)井ヶ田製茶北郷茶園(宮崎県)は、たしかに美味しかった。
だが見方を変えれば、アミノ酸的な旨みにやや偏り、火香もかなりあるのではないか。
評価者にもっと関西のお茶業者さんがいたら、プラチナ大賞を獲れただろうか?
もう少し「旨み」一辺倒ではない味わいだと更に良かったと思う。



その他気になった点を少し挙げようと思う。

・プラチナ賞19点は売り切れ続出


事前選出された19点は人気で、早い段階で大半が売切れてしまった。
「プラチナ大賞」2点をはじめ、「プラチナ賞」19点は、それが決定した時点でより多めに取り寄せて販売したほうがよさそうだ。
もちろん、第一回で数字の見えない中、予想以上の売れ行きだったということを意味しているので、この売り切れは嬉しい悩みでもあったといえる。


・19点から漏れた出品茶を買いたくなる動機付けが必要

また、主に19点から漏れた残りの200点以上が販売されていたが、さすがに数が多すぎて選びきれないのと、「19点に入賞できなかったものか」という先入観を払拭する仕組みが必要かと思った。
たとえばいくらか料金を払うことで一定時間もしくは一定回数試飲できるようにしたりすると、選びやすいかもしれない。


・Awardをアワードと読むのはどうか・・・

所詮カタカナ化の話だから完全に正確にはなり得ないが、"Star Wars"が「スター・ウォーズ」であるように、"Award"は「アワード」ではなく「アウォード」とするほうが適切だと思う。
できれば複数形でAwards(アウォーズ)と書くべきものかと思う。
サッカーは「Jリーグ・アウォーズ」と名乗っている。



色々改善できそうな点はある。しかし「口で言うこと」と「実現すること」は全く別のものであり、実際にこのようなイヴェントを行うことには、途方も無い労力が伴っている。
単純な目先の損得だけを考えていたら絶対にできないことである。