2011年10月10日月曜日

秋のお茶

高級茶が出揃う秋

一般の消費者からするとお茶といえば新茶、5月あたりが楽しみである。
自然の摂理を考えれば真っ当な考えなのだが、お茶を売る側からすると、秋も非常に重要な季節のようだ。

というのも、現在の日本では、夏の終わりから秋に主要な品評会、入札会が目白押しだからである。
あるお茶屋さんが、「美味しいお茶は、新茶の季節よりも秋の入札会で出てくるものだ」と仰っていた。
丁寧に作ったお茶は、低温保存され、秋の入札会に出されるものが多い・・・・つまり、そういうお茶は秋に摘まれたものではなくて、春に摘まれたものが秋に出てくるということである。

植物の特性としては、新鮮さや栄養が減ってしまうというのは間違いないと思うが、「滋味がある」という言い方をする人もいる。

業界的に、「新茶の華やかさよりも、夏を越えたお茶のまろやかな味を楽しむのが通」というような風潮は存在すると感じる。

が、いくつかの点で疑問がある。


茶道(抹茶)では「口切りの茶事」というものがあり、春に摘んだお茶を冷暗所で保管しておいたものを、秋に開封し飲む伝統があり、それらは「新茶のとげとげしさがなくなり、その結果まろやかな旨みが強調されたものになる」、とされる。
このことから煎茶でも「夏を越えたのが通の味」と言われているように見える。

だが、煎茶の場合、例えば「秋の口切り」で検索してみると分かるが、「零下30度で真空保管されたもの」が「秋の口切り」として売られていたりして、それだったら単に「新茶の保存」という意味合いのほうが強いのではないかという気もする。
良いものを秋に出すところが多いので、品質の良さが鮮度の劣化を上回っているという気がする。

(ちなみに、そのような批判に応えるべく、高地の蔵のような冷暗所で壷に入れて保管の上、秋以降に出してくるという煎茶も、ごく稀に存在する。これは確かに独特の円やかさを感じた。が、大部分のお茶はそうではない。)

また、新茶の味(作り方)は今昔でかなり違う(昔の新茶はもっと青々とした味であった)ので、秋まで寝かせる意味合いというのも今昔では全く違うはずなのだが、そういう文脈はどこへいってしまったのだろう?

  • 煎茶と抹茶の文化を混同している
  • 煎茶の作り方と保存法が今と昔で異なるのを無視している
  • 「秋のお茶が通」という固定観念が先に来ている

という場合が多いように思えてならない。



秋に摘まれたお茶

また、上記のような「春に摘まれて秋に出てくるお茶」ではなく、「本当に秋に摘まれたお茶」ももちろん存在するが市場価値は低いのが現状である。

紅茶では秋に摘まれた「オータム・ナル」というものもあり一定の評価を得ているし、日本茶でも秋に摘まれたお茶を伝統的には「番茶」として飲んできたところも多々あるので、可能性はあるかもしれない。

お茶は米のような種ではなく葉っぱなので、春摘みのお茶しか飲まないことのほうが、歴史的には不自然と言えるだろう。



秋のお茶は「火香」に注意

品評会に出すようなお茶とは別に、秋に多くなるお茶がある。
それは、火入れを強くしているものだ。

「月見茶」のように銘打っているところもあったが、あるお茶屋さんでは同じ銘柄でも無言で秋・冬は火香を強くしていた
そのお茶屋さんに問い合わせたら、「秋、冬は、火入れを強くしている」という回答をいただいた。

もちろん、品評会に入賞するような高級品には、お茶本来の味が分かりにくくなるので、そういうことはしない。

一般に「狭山火入れ」(強い火入れが特徴)という言葉があるが、狭山茶でも、品評会に出るようなものは、そうしたものとは全く別の作り方をしている。

寒い季節=強い火香というのも分かるが、例えば、火香が強い蒸し製緑茶だけではなく、釜炒り茶(釜香)をそういうシーンでの飲用に薦めてみてはいかがだろうか、と思う。

2011年10月9日日曜日

[番外編] 台湾・天圃茶荘の高山烏龍茶

自分が知る中ではとても美味しい凍頂烏龍茶である。
華やかな香りと上品な甘みがあり、高級品と感じさせる。

調べてみたところ、2008年の価格では150グラムで1200元(約4200円)だったとの記載をネットで見つけた。

また、「徐さんは自分の舌で味を確認するため、お酒も煙草も香辛料の入ったお料理も召し上がりません。ニンニクの入った美味しいお料理も食べられないんですよ。」ともある。

http://community.travel.yahoo.co.jp/mymemo/syakatou/buzz/21850.html

そういえば、神保町のティーハウス・タカノの高野さんも、味が濃すぎて珈琲が飲めないと仰っていた。

この天圃茶荘さんは、日本語のサイトをお持ちで、ブログで大震災のお見舞いを書いてくださったりしている。

http://blogs.yahoo.co.jp/tienpuutea2009

「阿里山茶葉男」を名乗っておられるので、この高山烏龍茶も阿里山のお茶なのかもしれない。
が、阿里山金萱のようなミルキーな感じではなく、花のような、より上品で華やかな味である。
ブランデーで言うならポール・ジローの35年!

台湾を訪れる際は是非お店を訪問してみたいものだ。

『お茶は世界をかけめぐる』高宇政光著、筑摩書房刊、2006年

煎茶の歴史が書かれた物としてこれを上回る内容のものを知らない。

社会学において、日本の伝統とされていたものが実は明治以降の近代に作られたという、「伝統の創出」という概念があるが、これを思い出した。

煎茶は、アメリカや北アフリカなど、その時代その時代の消費者に向け発展してきた経緯があり、江戸時代からある煎茶ではあるが、多くの日本人が日常的に飲むようになったのは、実は1960~1970年代あたりとさえ言える。それまでは番茶。

この考え方を骨子に、沢山の資料を駆使し、「日本茶の近代史を書き換えようという意気込みで」書かれたのが本書。
日本茶ファン必読の書。